ニューヨークで臨床医として活躍する山田 悠史氏が、米国や世界で注目されている医療関連ニュースを読み解いた記事を紹介させて頂きます。
普段、私たちが何気なく口にしているハムやソーセージ、甘いジュースや菓子パン。手軽で美味しいこれらの食品が、実は私たちの健康に静かな影響を及ぼし続けている…。2025年6月に医学雑誌Nature Medicine誌に発表された論文1)は、加工肉、砂糖入り飲料、トランス脂肪酸といった「超加工食品」の成分が、さまざまな病気のリスクを高めることを改めて浮き彫りにしています。今回は、この研究の結果を、私たちの生活に身近な例を交えながら解説していきます。

「少しだけ」でも危ない?
加工肉・甘い飲み物・トランス脂肪酸の新常識
この研究がとくに注目されるのは、非常に慎重な分析手法を用いている点です。多くの研究結果を統合し、あえて控えめに見積もってもなお、健康への悪影響が確認された点に大きな意義があります。ここからは、この研究で分析された、加工肉、甘い飲み物、トランス脂肪酸、それぞれのリスクについてみていきましょう。
(1)加工肉のリスク
まず研究では、ハムやソーセージ、ベーコンなどの加工肉を日常的に食べることが、2型糖尿病や大腸がんのリスクを高めると結論付けています。具体的には、毎日わずかな量(0.6〜57g)を食べるだけでも、2型糖尿病のリスクが平均で11%以上、大腸がんのリスクが平均で7%以上高まることが示されました。
さらに衝撃的なのは、そのリスクの増え方かもしれません。摂取量が増えるほどリスクは上がり続けますが、とくに「0から1のところ」でリスクが最も急激に上昇することがわかりました。これは、「少しなら安全」という考えが通用しない可能性を示唆しています。
たとえば、平均的に約50gの加工肉を毎日食べる人は、2型糖尿病のリスクは約30%、大腸がんのリスクは約26%増加すると試算されています。これは、標準的なサイズのホットドッグ1本、ソーセージ2〜3本、ベーコン(スライス)2枚程度に当たります。アメリカに住む私には耳の痛い話で、日本でもこのぐらいの量はさまざまな食事を通して登場しているかもしれません。
(2)砂糖入り飲料のリスク

炭酸飲料やスポーツドリンク、甘い缶コーヒーやジュースといった砂糖入り飲料も同様です。これらの飲料を日常的に飲むことで、2型糖尿病や心筋梗塞などの虚血性心疾患のリスクが高まるという結果が報告されています。
こちらも比較的少量の摂取からリスクは上昇し、1日当たり250g(大きめのコップ1杯強)の摂取で、2型糖尿病のリスクは約20%増加すると報告されています。喉が渇いたときに、水やお茶の代わりに甘い飲み物を選ぶ習慣がある方は、注意が必要かもしれません。
(3)トランス脂肪酸のリスク
また、今回の研究では、「食べるプラスチック」とも呼ばれるトランス脂肪酸についても分析されました。マーガリンやショートニング、それらを使ったパン、ケーキ、ドーナツ、揚げ物などに含まれることのある成分です。
結果は、トランス脂肪酸の摂取が虚血性心疾患のリスクを明確に高めることを裏付けています。摂取エネルギーのわずか0.25〜2.56%をトランス脂肪酸から摂るだけで、リスクは平均3%以上高まりました。現在はWHOもそのリスクを訴え、世界中で使用を制限する動きが広がっています。この研究結果は、その動きの正しさを改めて後押しするものといえるでしょう。
なぜ体に悪いのか、その仕組みとは?
では、なぜこれらの食品は体に良くないのでしょうか。論文では、いくつかのメカニズムが指摘されています。
たとえば加工肉は、塩分や飽和脂肪酸が多いだけでなく、保存のために使われる亜硝酸ナトリウムなどの添加物が、体内で有害物質に変化する可能性が指摘されています。
また、砂糖入り飲料の過剰な糖分は、体内の炎症を引き起こしたり、内臓脂肪を増やしたりします。さらに、これらの超加工食品は、共通して腸内環境のバランスを崩し、悪玉菌を増やしてしまう可能性なども指摘されています。
少しの気配りで未来の健康を守る
今回の研究結果は、加工肉、砂糖入り飲料、トランス脂肪酸の摂取を控えるべきだという、これまでの食事ガイドラインを科学的に強く支持するものとなっています。これらの食品が広く消費され、関連する病気が多いことを考えると、決して軽視はできません。
もちろん、この研究にも限界はあります。食生活の自己申告に基づく観察研究であること、他の生活習慣の影響を完全に排除できないことなどです。しかし、私たちの健康を守るための重要なヒントを与えてくれているとも思います。
日々の食事の選択が、10年後、20年後の自分の健康がどうあるかを左右します。普段の買い物や食事の際に、砂糖入り飲料を水やお茶に変えてみたり、加工食品を新鮮な食材に置き換えてみたりと、日々の食生活を少し見直してみてもいいかもしれません。その小さな一歩が、未来の健康への大きな投資となるのかもしれません。